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東京地方裁判所 昭和27年(行)147号 判決 1959年11月19日

原告 通也こと 関沢忠蔵

被告 関東信越国税局長

訴訟代理人 真鍋薫 外三名

主文

被告が原告の昭和二五年度分所得税に関して同二七年八月七日付でした審査決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

理由

一、原告が本件事業年度分の所得の申告について青色申告によることの政府の承認を受けていること、原告が本件事業年度分の所得税に関し確定所得額三二五、七〇〇円余を申告したところ、高田税務署長は、昭和二六年一二月二八日、その所得額を八八八、七三一円と更正(本件更正処分)して原告に通知したこと、原告は右更正処分につき被告に対して審査の請求をしたところ、被告は昭和二七年八月七日に右請求の一部を認容して右所得額を八七四、九四三円に減額する旨の審査決定(本件審査決定)をし、原告に通知したことについてはいずれも当事者間に争がない。

二、原告は本件審査決定の通知書は具体的な理由の記載を欠くので右決定にはかしがあり取消を免れないと主張するので判断する。

(一)  所得税法第四九条第六項は、国税庁長官又は国税局長が審査の請求について決定をする場合には、その理由を附記した書面を請求者に通知しなければならないとしているが、かように審査決定の通知書に理由の附記を要するとした趣旨は何であろうか。所得税の課税徴収手続において再調査乃至審査の請求の制度が設けられているのは、一般の行政処分に対する訴願の場合と同じく原処分(更正処分、決定処分、再調査決定等)に対して不服を申立てさせることにより右処分をした税務官庁又はその上級税務官庁をして当該処分の当否につき再考乃至是正の機会を得しめるとともに、かかる処分によつて権利利益を侵害された納税者の救済をはからんとするものであることは異論のないところであろう。そうだとすれば、再調査決定乃至審査決定の通知書に理由の附記が要求されているのは、まず税務官庁をして納税者の不服申立事由について如何なる判断を下したかを明示させることにより当該決定について権限を有する者がその権限の行使につき独断恣意におちいることなからしめ、もつてその客観的相当性を担保するとともに、納税者に右決定をなつとくするか、あるいは更に不服申立をすべきかにつき判断の資料を提供し、納税者がすすんで不服申立(再調査決定に対しては審査の請求、審査の請求に対しては訴訟提起)をする場合にはその攻撃の対象を明らかにし、もつて爾余の手続において決せらるべき争点を用意せしめようとするものであると解することができる。かように考えれば審査決定の通知書に理由を附記しなければならないとする前記所得税法第四九条第六項の規定は実に右一連の不服申立制度の根幹をなす不可欠のものであつて、決して単なる訓示規定ではなく、それ自体一つの効力規定である。従つて通知書に適法な理由の附記を欠く審査決定は違法であつて取消を免れないものといわなければならない。

(二)  成立に争のない甲第一八号証によると、本件審査決定の通知書にはその理由として「審査請求は一部理由があるから認める」とのみ記載されていることが認められる。これは果して右に説明した如き所得税法第四九条第六項の「理由の附記」ということができるであろうか。ここで右規定にいう「理由の附記」はどのような程度までその記載を要するものであるかを考えてみなければならない。もし、審査決定の通知書に理由の附記が法律上要求されている趣旨が前述のとおりであるとするならば、附記されるべき理由としては、一般的にはまず審査の請求の不服申立事項のうちいかなる事項について理由ありと認め、いかなる事項について理由がないと認めたかの判断を個別的に明示するとともに、理由がないとの判断に達した部分については何故にそのような結論に達したかの根拠について客観的に一般人をして一応理解せしめるに足るような記載をすることが要求されているものと解すべきであろう。しかるに本件審査決定の通知書に記載されている前記理由は、極めて抽象的であつてそれ自体当該結論を導くにいたつた根拠について特定の内容を有するものとはいえず、原告が審査請求において主張した所得計算のうちどの項目を認容し、どの項目を否認したのであるかさえも記載していないし、また原処分の通知書に附記された理由を引用する趣旨もうかがわれない(もつとも本件においては原処分である更正処分の通知書には引用し得べき理由の附記はない。)のであるから、到底所得税法第四九条第六項によつて要求されている適法な理由があるとはいえない。

三、以上のとおりであるから、本件審査決定はかしがあり取消を免れないものというべきであつて原告の本訴請求は理由がある。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅沼武 菅野啓蔵 小中信幸)

第一ないし第四目録<省略>

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